話題の識学とは何か。コーチングの視点から。

「識学(しきがく)」をご存知でしょうか。ビジネスマンであれば一度は要潤さんの広告で見たことがあるかもしれません。

「識学」は、2015年頃に始まった組織コンサルティングの一種です。運営している株式会社識学が2019年2月22日に東証マザーズに上場しますので、これから導入企業も増えていくと思います。

そこで今回は、その内容をコーチング理論から読み解いてみようと思います。

識学とは

「識学」とは、人が事象を認識し行動に至るまでの思考の働き(=意識構造)に着目した株式会社識学独自の理論をベースにした組織マネジメント理論です。

”モチベーションを気にする必要がない”と常識で考えられていることと逆のことを言うCMで注目を集めています。


識学の本(書籍)

株式会社識学の代表取締役の安藤広大さんが2017年1月と2018年1月に本を出版されています。

私もこの本を読んで、「識学」のことを知りました。まず端的に「識学」のことを知るには、エッセンスがまとめられています。

伸びる会社は「これ」をやらない!

「~をやめる」という切り口で、社長をターゲットに普段良かれと思っていた言動が<いかに組織に悪影響を与えていたか>を紹介しています。

できる課長は「これ」をやらない!

2冊目の著書では、中間管理職(課長)に対象を移して、「できる課長は~しない」という切り口で日常的に<よかれと思ってやっている間違い>を紹介しています。

識学は怪しいのか?

「識学」とは何か、ということについては前述の通りで、人が事象を認識し行動に至るまでの思考の働き(=意識構造)に着目した株式会社識学独自の理論をベースにした組織マネジメント理論、となります。

しかし、株式会社識学の2017年ころのウェブサイトには、現在とは違った書き方がされていました。

Q. 識学って何?

株式会社識学ウェブサイト(https://corp.shikigaku.jp/i)より

識学とは、人間の意識構造を対象に研究された「意識構造学」という学問です。弊社では識学を応用したリーダー向けの組織マネジメントに関するトレーニングを行っています。

「意識構造学」という学問です、と書かれていたんです。そこでどういった内容の学問なのか調べてみたのですが、、

日本学術会議、日本学術協力財団、科学技術振興機構が運営する学会名鑑には2018年3月2日現在で2,019もの学会が登録されていますが、「意識構造学」の学会は見つけることができません。

(一般的に、ある学問が存在すれば、それに関連する学会が1つ以上存在し、その学問の研究者が学会に所属しお互いに研究成果を発表・共有します。)

また、Google Scholarで検索しても「意識構造学」に関連する論文を見つけることはできませんでした。

現在のウェブサイトの記述では、「意識構造学」は意識構造に着目した独自理論に付けた造語のようですので、学術的に研究されている学問のように誤解を生むこういった点が、識学は怪しいと思われている要因ではないかと思います。

創始者の福冨謙二氏とは

次に、福冨謙二氏についてです。有価証券報告書によると、福冨氏が識学という理論の創作者であり、現在識学研究室の室長だそうです。

福冨氏が株式会社識学の役員であれば有価証券報告書に経歴が掲載されます。しかし、2017年5月に取締役を退任して従業員になっているため、2019年1月提出の有価証券報告書では経歴を確認することができませんでした。

なので、どういったキャリアを歩んでこられた方なのかわからないのですが、Google Scholarで検索したところ発表論文が見当たらなかったため、どこかの大学で教鞭を執っていた方ではないようです。

識学の導入企業

有価証券報告書によると導入累計社数は2018年11月末時点で864社だそうです。株式会社識学のウェブサイトやfacebookページ上で確認できた企業名をまとめました。

導入企業・団体(順不同)

  • 株式会社 ALL CONNECT
  • UUUM 株式会社
  • 株式会社 ピーアップ
  • 株式会社サービシンク
  • 株式会社林産業
  • 株式会社スリーエス
  • 株式会社インタースペース
  • 税理士法人CROSSROAD
  • R&C株式会社
  • 株式会社カスタマーリレーションテレマーケティング
  • 株式会社アール・エム
  • MIKAWAYA21株式会社
  • 株式会社ファインドスター
  • 株式会社MS・PAINT
  • 株式会社SAL
  • 株式会社LEGEND
  • 株式会社ラインアップ
  • アナグラム株式会社
  • 株式会社wevnal
  • 株式会社Loop Quest
  • 株式会社ギフト
  • 株式会社デイサービスセンターうららか
  • SMBC日興證券株式会社
  • 株式会社RITA-STYLE
  • 中央電力株式会社
  • 株式会社リアライブ
  • 株式会社ベーシック
  • 株式会社ティーンスピリット
  • broocH
  • 株式会社ドットライン
  • 株式会社エストコーポレーション
  • 株式会社ビーボ
  • 株式会社チェンジ
  • 株式会社ピーアンドエフ
  • 株式会社ワンハンドレッド
  • 株式会社エッジコネクション
  • オープンデザイン株式会社
  • 株式会社ウィルゲート
  • 株式会社KAZE&Co.
  • 株式会社T-Garden
  • トークノート株式会社
  • 株式会社フルアウト
  • 株式会社もしも
  • 株式会社リンクエッジ
  • 株式会社ウィル
  • 株式会社エムハンド
  • 株式会社スリースター
  • 株式会社パッションアンドクリエイト
  • 株式会社Fan’s
  • 株式会社光通信
  • 株式会社ブリーチ
  • 株式会社FCEトレーニング・カンパニー
  • 株式会社ウェルクス
  • 日野自動車ラグビー部
  • 西宮ストークス
  • 関メディベースボール学院
  • やね整骨院
  • 桐蔭学園高校ラグビー部
  • 四国大学医学部ラグビー部
  • 元劇団四季 舞台女優 熊本 亜記氏

コーチング理論から見た識学

株式会社識学の目論見書より

「識学」の説明が長くなってしまいましたが、ここからはコーチングを絡めていきたいと思います。

私は「識学」を受講したことはありませんので、ウェブサイトや有価証券報告書の「識学」の情報を元にして、コーチング理論との関係をみていきます。

考え方が似ていると思うところ

「識学」はヒトの思考の癖から生じる誤解や錯覚は個人の行動の質及び量を低下させる、とあります。

文章だと分かりづらいですが、上の図で見てみましょう。

1つの事実に対して、(この図で言えば2人が)それぞれ”思考の癖”を持ちその事実を認識すると、そこに誤解や錯覚が生まれて相互認識のズレが生じる、ということになります。

 

たとえば、単純な例だと、
1年以上ずっと取引があったお得意様との取引が突然終わってしまったとします。

そのときAさんは、「売上がなくなってしまった!」と考え、Bさんは、「自分の仕事が少なくなった!」と考えたとしたら、その後、ふたりが「どうしよう」と会話をしてもすれ違いが生じてしまいます。

これは認知科学に基づいたコーチングと同じような見方です。

人は誰もがスコトマ(ここでは心理的盲点の意)を持っていて、
限定的な情報、ある意味偏った情報しか取得することが出来ません。

同じような場面に遭遇しても受け取り方は人それぞれ違いますし、
同じ風景・景色を見ていたとしても、受け取っている情報は同じとは限りません。

 

私も経験があります。

一緒に映画を観に行った友人と感想をお互いに言い合うと、「良かった!」というシーンは同じでも、

あの表情が~」や「あのときの音楽が~」と言われると、「あれ…セリフは覚えてるんだけど、表情…音楽…どうだったかな…」と思い出せないことがあります。

スコトマは非常に巧妙で、見ているようで見ていない、は日常的に起こっています。

つまり、「識学」のヒトの思考の癖から生じる誤解や錯覚に関しては、認知科学の知見からも明らかになっていることです。

考え方が異なっていると思うところ

「識学」では、この誤解や錯覚の発生要因と解決策を体系的している、とあります。

つまり、「識学」という組織マネジメントのフレームワーク(方法論)を企業に提供しています。

これは想像になってしまいますが、
「識学」では社長はこういう視点で考えるもの、課長(管理職)はこういう視点で考えるもの、とそれぞれの立場の見方を定義するのではないかと思います。

そうすることで、”思考の癖”を役職の階層ごとに統一させて、誤解や錯覚が生まれない組織を作っていると思います。

 

書籍でも、社長の立場、課長の立場それぞれで、<~しない>(=~しましょう)というケーススタディが並んでいましたので、視点(フレームワーク)を提供しているようです。

 

この点はコーチングとは異なります

コーチングでは個別具体の事象には直接関与しませんので、視点(フレームワーク)の提供はしません。
ですが、「対話によって相手の内側から答えを引き出す」こととも異なります。

 

企業向けのコーポレートコーチングでも理論体系の中にこういった事例に活用できるアプローチ方法があります。

それぞれ”思考の癖”を持ちその事実を認識すると、そこに誤解や錯覚が生まれてズレが生じる。
この例では抽象度がキーワードになります。

抽象度の説明をここでは割愛しますが、思考の抽象度を上げることでも誤解や錯覚からのズレが生まれなくなります

抽象度を上げると、包摂する概念の範囲が増えますので、
自分の思考の癖(視点)と相手の思考の癖(視点)を包摂した視点を持つことで、ズレが生じなくなります。

どうやって組織の中で思考の抽象度を上げていくのかは、別の機会に譲ります。

まとめ

「識学」の概要と、分かる範囲でその内容をコーチング理論と対比させてみました。

人それぞれ思考の癖を持ち、という認識の問題は、認知科学に基づいたコーチングと同じ前提をもっていました。

「識学」ではフレームワークを教えることで解決策を提供していて、コーチングでは思考の抽象度を上げることを通して解決させる、とアプローチ方法は異なっていました。

得られる結果が同じであるなら、アプローチ方法に優劣はありませんし、どちらが良いということもありません。
これからも「識学」に注目していきたいと思います。