体罰・しつけのないコーチングの世界へ

苫米地式認定コーチの萩原崇です。

体罰・しつけ、と行動主義の限界、そしてコーチングの世界についてです。

2020年4月、保護者による体罰禁止が盛り込まれた改正児童虐待防止法改正児童福祉法が施行されました。

そしてさらに2022年3月に、虐待を受けた子どもらを親から引き離す一時保護の要否を裁判官が判断する制度の導入などを盛り込んだ児童福祉法改正案が閣議決定されました。国会で審議されています。

厚労省が示した体罰の指針案

2000年に児童虐待防止法が成立して以来、児童虐待防止対策に関して多くの改正がなされ、2020年4月に施行された児童福祉法の改正では,子どもへの体罰禁止が法定化されました。

厚生労働省は児童虐待防止法等の改正を受けて、「体罰等によらない子育てのために」をとりまとめました。

これらは全て「体罰」です。
厚生労働省「体罰等によらない子育てのために」パンフレットより
子どもの心を傷つける行為です。
厚生労働省「体罰等によらない子育てのために」パンフレットより

今回の児童虐待防止法の改正案は、体罰としつけの違いを指針で明示していて、「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」と明記しています。

こうして日本は、世界で59番目、東アジアで2番目の体罰全面禁止国になりました。

体罰の歴史

日本の学校教育の場において、学校教育法の第11条「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」とされているものの、体罰の定義が曖昧であったため度々問題となっていました。

体罰の弊害

親には、子どもの利益のために監護・教育をする権利・義務があります。

だから子どものためを思って、「理想の子どもに育てよう」、「将来困らないようにしっかりとしつけなくては」、「他人に迷惑をかけない子どもに育てなくては」としつけを行うとしても、身体に何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為などは体罰として禁止されています。

体罰を受けた人は、そのときの体の傷だけではなく心にも傷が残り、後々まで影響を受けることが知られているのです。体罰を受けた人は、成人後に不安障害やうつ病、依存症などの精神疾患に罹患しやすいという研究データもあります。(National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions)。

一方で、イギリスの医学会雑誌「BMJ Open」で、2018年に88カ国・40万人を対象にした調査から「体罰を禁じることで若者の暴力性が減少する」という結果が明らかにされています。

さらに体罰を受けた人は、自分が親や指導者になったときに体罰を繰り返してしまうという「体罰の連鎖」が起こりやすいのも問題になっています。これは「虐待の連鎖」と同じことです。

なお、「体への罰」だけでなく、言葉による傷つけ、暴言、いきすぎた叱咤激励も、子どもの心にダメージを残すことが知られています。親の暴言が子どもの知能指数を下げるという研究データも、アメリカや韓国などで出されているのです(Violence exposure, trauma, and IQ and/or reading deficits among urban children. Arch Pediatr Adolesc Med. 2002 Mar; 156 (3): 280–5. Delaney-Black V)。

世代から世代へ続く連鎖

虐待の連鎖」については2019年に理化学研究所の調査で、子どもを虐待したとして有罪判決を受け、服役した親ら25人のうち、72%に当たる18人が自身の子ども時代に虐待を受けていたことがわかっています。

虐待の連鎖」をしてしまっていた女性のコメントで「もともと自分が子どもの頃から暴力を振るわれて育ち、子に手を上げることに抵抗がなかった」というのを見たときは衝撃でした。

家庭におけるしつけ

2020年4月に改正法が施行されたときのニュース記事では保護者の戸惑いも見られました。日本はいまだ体罰を容認する意識が根強いようです。

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2017年に20,000人を対象にした意識調査では、しつけのために体罰を容認する人が約6割に上ったそうです。

子育てを担うことは、大変なことです。子どもに腹が立ったり、イライ ラしたりすることは、子育て中の保護者の多くが経験するものです。体罰等をしてしまう保護者もさまざまな思いや悩みを抱えてるかもしれません。

厚生労働省が推奨しているのは、子育ての不安・負担を1人で抱えずに、パートナーやママ友・パパ友、子育て支援者などに打ち明け、相談・共有していくことです。育児で負担になっている部分を分担・手助けしてもらうなど、支援のネットワークを確保することです。

子どもの気持ちや考えに耳を傾けられる時間を増やせるようにしたいですね。

しつけの目的とは

しつけの目的とは何なのでしょうか。

その答えは間違いなく「自立」です。
家庭教育も学校教育もその最終的な目的は、子どもが自分一人で社会生活を送れるように自ら立っていくことを準備することです。

しつけは「」と漢字で書きます。「身」と「美」から成り立っていて「身だしなみを美しく」と解釈され、この漢字は、中国から伝えられたものではなく日本で考案されたものだそうです。

着物を縫う時に「しつけ糸」というものがあります。

本縫いをする前に裾や袖などの縫い目を抑えるために先に弱い糸で縫っておきます。 この糸を「しつけ糸」といって、切れやすい弱い糸を使います。

子どものしつけも「しつけ糸」と同じように、大まかな枠組みを子どもに与えること、すなわち子どもを大まかにガイドすることにほかなりません。

しつけの目的の「自立」とは、子どもの内に自分で自分を律し、自分で考える力を育てることです。

自分を信じる自信をつけていくことです。

自分で考えて行動し、事を選択し、その結果を引き受けていく大人になっていくためのガイドです。

行動主義的トレーニング

ペットのしつけで罰を与える手法は、オペラント条件付けで強化・弱化するもので、行動主義のパラダイムが大きな影響力を持っています。

行動主義以前のトレーニングは、よく言えば経験主義的、悪く言えば非科学的で、極めて非人道的であったそうなので、それよりは進歩しているとも言えます。

オペラント条件付けは、ある行動により好ましい結果が得られた時に、その行動は強められ(報酬訓練)、好ましくない結果になったのであればその行動は弱められる(罰訓練)ように訓練します。

行動主義は心理学の一潮流で、1900年代後半までは優勢であったが、それ以降は認知心理学に代わられるようになりました。行動主義のパラダイムは総じて機械論的であり、意識や認知といった心の働きを考慮していません。

それに対し、動物にも心、感情、意識があると考える潮流が現れ、動物たちの知能やこころを科学的に分析することによって、ヒトの心の進化を解明しようとする比較認知科学という学問分野ができると共に、他方では、こころの存在を前提にして動物そのものを研究する認知動物行動学(cognitive ethology)が成立した。

つまり、人間に対しては行動主義から認知心理学のパラダイムに移行したにも関わらず、動物のトレーニング領域では未だ支持され残っているように思えます。

そしてこの手法が同じ「しつけ」という言葉で使われているが混乱を招いている要因ではないでしょうか。

子どもが持っている権利
厚生労働省「体罰等によらない子育てのために」パンフレットより

内発的動機づけ(コーチングの世界へ)

体罰とは外からの力や恐怖心などを子どもに与えることによって子どもの行動をコントロールする方法です。そのような方法を「外的コントロール」と呼ぶとすれば、コントロールのもう一つの方法に「内的コントロール」があります。

それは自分で考え、感じ、自分で選択していくこと、さらに自分で自分をどう律していくか、自分で自分をコントロールしていく方法です。

目標達成やパフォーマンス向上のためには、心理学や行動経済学の知見によれば、「内発的動機づけ」が大事と言われています。

金銭報酬や他者からの評価などの「外発的動機づけ」ではなく、自らの関心や「達成したい!」「楽しい!」と思う気持ちのことです。

青少年向けの次世代教育プログラム「PX2」でも内発的動機づけ、心からやりたいと望むwant toを探すSTEPが組み入れてあります。

まとめ

よく聞く子育てのアドバイスは時代遅れの知識が多分に含まれています。そんな古い知識が「悪いことをしたら叱る」「それでもダメなら叩く」というマイナスしか生まない子育てを横行させる状況の要因にもなっています。

しつけには体罰と表裏一体となるような身体的なことだけでなく、言葉でのコミュニケーションでも可能だということを認識してもらいたいです。