「インポスター症候群」という言葉をご存知でしょうか。
インポスター症候群というのは、何か目標を達成したり、仕事に成功しても、「自分なんて・・」と思ってしまう状態のことで、インポスター症候群の人は”異常なまでにエフィカシーが低い”といわれています。
コーチングとはエフィカシーを上げること、なのでエフィカシーが上がらないインポスター症候群とは一体何なのか、理解していきたいと思います。
「インポスター症候群(シンドローム)」とは
インポスター症候群の「インポスター」とは〝impostor〟(詐欺師)を表すもので、「自分が評価されることで誰かをだましているように感じる」というのが共通の心理的特徴です。
1978年にポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスが論文で発表しました( Psychotherapy: Theory, Research & Practice 15 (3): 241–247. )
仕事や社会で経験、実績を重ねてきたにもかかわらず、自分に自信を持つどころか、自分のキャリアは偽りで周囲を欺いているだけだと後ろめたく感じたり、いつか自分が“詐欺師”であることを知られるのではないかといった不安にさいなまれたりします。
インポスター症候群の症状
ポーリーン・ローズ・クランス博士はインポスター症候群の代表的な症状として20項目を上げています。
- おおおおお私は、仕事に着手する前はうまくいかないと恐れていたが、しばしばテストや仕事には成功した。
- 私は、私が実際よりも優秀であるという印象を与えることができる。
- 私は、可能な限り評価することを避け、他の人たちに評価されるのを恐れる。
- 私は、人々から何かを賞賛を受けたとき、次は期待に応えられないのではないかと心配する。
- 私は、時に自分が現在の地位を獲得したり、成功を収めたのは、適切な時と場所にあったか、適切な人を知っていただけだ。
- 私は、大切な人々に自分が思っているほどの能力がないことを見抜かれるのを恐れている。
- 私は、自分のベストを尽くした時よりも尽くさなかった時のことをより覚えている。
- 私は、めったにプロジェクトや仕事をしないし、やりたいとも思わない。
- 私は、自分の人生や職場での成功が何らかの誤りの結果であったと感じたり、信じたりすることがある。
- 私は、自分自身の知性や業績を賞賛したり、称賛を受け入れことに抵抗を感じる。
- 私は、時には、私の成功は何らかの運が原因なのだと感じる。
- 私は、現在の功績に時々自ら失望し、もっと多くのことを達成すべきだったと思う。
- 私は、私の知識や能力が足りないことに誰かが気付くのではないかと時々心配する。
- 私は、普段通りに何かやり遂げていたとしても、しばしば新しく担う仕事では失敗するかもしれないと恐れている。
- 私は、何か成し遂げそれを認められたとしても、私はそれを繰り返すことができるのか疑問に思う。
- 私は、私がやり遂げたことに多大なる賞賛を受けたら、私は成し遂げた事が大したことがないように振る舞うだろう。
- 私は、しばしば周囲の人達と能力を比較し、そしてみんな私より優れているのではないかと思う。
- 私は、周囲の人たちが私はうまくやると確信を持っていても、自分ではプロジェクトや試験で成功しないのではとよく心配している。
- 私は、評価を受けたり、昇進することがあったら、確実な事実になるまで他人に話すことを躊躇する。
- 私は、成果を伴う状況で、私が「最高」少なくとも「非常に特別」でない場合は、気分が悪く落胆する。
インポスター症候群の告白
インポスター症候群が注目されるきっかけになったのが海外の著名人による告白です。
詩人・歌手・女優・活動家として活躍したマヤ・アンジェロウ氏は11冊の本を書き、大統領自由勲章を受賞してもなお、本を完成させるたびに「ああ、これで私がみんなを騙していたことが、ばれてしまう」と考えていました。
Facebook社のCOO(最高執行責任者)を務めるシェリル・サンドバーグ氏は、彼女自身の初めての著作『LEAN IN (リーン・イン): 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社)の中で記している内容によると、
「私と同じ事を感じている人はたくさんいたのである。教室で指されて答えるたびに変な事を言ってしまったと感じる。試験を受けるたびに、失敗したと思う。何とか切り抜けた時でも、それどころか見事にやってのけた時でも、今度はみんなを騙しているだけだと後ろめたく思う。いつか自分の貧弱な中身が全部ばれる日が来るのだ、と」
『LEAN IN (リーン・イン): 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社)
またそれが「インポスター症候群」という症状にあてはまるもので、自分だけでなく多くの人に共通するものであったということを告白しています。
女優のエマ・ワトソン氏は、イギリスの日刊紙「THE SUN」の記事の中で、「自分がいい仕事をすればするほど、『わたしはそんなに褒められる資格なんてない』という気持ちが大きくなっていく」と告白しています。
「インポスター症候群」の克服
インポスター症候群の背景
インポスター症候群の背景にはどのような要因があるのでしょうか。インポスター症候群の原因は大きく分けて二つに分類されます。
心理的要因
「心理的要因」になる具体的なものとしては次のようなものがあります。
- 自分が成功をした時に周囲からねたみや嫉妬を受けたくない
- 失敗した時に「ダメなやつだ」と思われたくない
- 仕事量の増加や難しい業務が与えられることを避けたい(どうせいつか失敗するから)
周囲の評価(ストレス)から身を守る、一種の自己防衛ともいえます。
文化的要因
「心理的要因」の基になる根源的な要因としては次のような「文化的要因」もあります。
- 小さい時から、周囲と同じように振る舞うことが求められてきた
- 女性は女性らしく、目立たず、そして静かに生きていかなくてはいけないと教えられてきた
このように自分でも気がつかないうちに、インポスター症候群を経験する要因を刷り込まれてしまっている人もいます。
インポスター症候群とコーチング
インポスター症候群では、幼少時期の教育や周囲の評価を受けることによって、低いセルフ・イメージ(自己イメージ)が強固になっています。
そして、エフィカシーの低い状態に陥っています。
私はこれを「呪縛」と表現しています。
「自分なんて」「たいしたことない」「みんなと同じ、普通」というセルフ・イメージが強固になっていると、”成功(達成)した自分”にギャップを感じてしまいます。これをコーチングでは、「コンフォートゾーン」の原理で説明しています。
強固なセルフ・イメージが自分を縛って、そこから抜け出せないようにしているのです。インポスター症候群を経験したことはなくても、三日坊主を経験したことはあるのではないでしょうか。新しく何かを始めよう(=自分を変えよう)とするのは、意外と難しいことなんです。
そこで、このセルフ・イメージを変えていく原動力となるのがエフィカシーです。
コーチと一緒にエフィカシーを上げていく
エフィカシーとは何か、をあらためて整理しておくと、
ゴールを達成する自己能力の自己評価
です。エフィカシーを語る上では同時にゴールについても説明が必要になるのですが、ここでは一旦割愛します。
エフィカシーを上げる、というのは一時的に上げるのではなくて、恒常的にエフィカシーの高い状態にするということです。一時的にハイ・テンションになっているのをエフィカシーの高い状態とはいいません(笑)。
エフィカシーを上げる作業は、トレーニングを積んだプロのコーチに依頼するのが最も安全で確実な方法です。そうはいっても、自分自身のエフィカシーを上げるセルフコーチングを自分でできるほうが望ましいので、その方法の一つを紹介します。
アファメーションが有効
セルフコーチングで、自分でエフィカシーを上げる方法のひとつがアファメーションです。
アファメーションとは、決められたルールに沿って作った自分に向けた言葉で、大げさにいうと、自分のエフィカシーを上げるオリジナルの「魔法の言葉」です。
アファメーションのルールは12あります。
- 一人称であること
- 肯定的に書く
- 現在進行形で書く
- 達成している内容にする
- 決して比較をしない
- 行動を表す言葉を使う
- 感情を表す言葉を使う
- 記述の精度を高める
- バランスをとる
- リアルなものにする
- 秘密にする
例として作るとこういうものです。
「私は、努力に見合った成果を上げることができる人間なので、目の前の物事に真剣に取り組むことにワクワクし心から楽しんでいる。」
作ったアファメーションを繰り返し自分に言い聞かせることで、自分の無意識に働きかけ、セルフ・イメージが変わっていきます。「自分なんて」「たいしたことない」「みんなと同じ、普通」というセルフ・イメージから、毎日HAPPYなセルフ・イメージに変わっていきます。
まとめ
「インポスター症候群」は男性よりも女性のほうが、症状が重くなるケースが多いそうです。症状を告白した著名人も皆女性でした。この背景には、やはり文化的な「呪縛」が関係しているように思います。
前述のシェリル・サンドバーグ氏の著書『LEAN IN』の中にも、女性は自分の仕事の成果を実際より低く見積もる傾向があるのに対し、男性は高く見積もる傾向があることが判明している、とありました。
そして日本では、2015年に女性活躍推進法が施行されました。上場企業には、有価証券報告書に女性役員の人数・比率を記載することが義務づけられました。企業で活躍したい女性に均等な機会を提供することはもちろん整備していってほしいですが、女性の管理職を増やすといった点ではそう簡単には行かないのが現状です。
現時点で管理職候補にあたる女性人材は、もともと各企業に多く残ってはいません。女性管理職を増やしたくても、選抜の対象となる母集団は限られているのが実態です。
そのような中で、本人たちの意向に関係なく、無理に抜擢を進めてしまうと、「私はそんなに実力はない」「女性活躍推進のブームに乗っているだけ」とインポスター症候群に陥ってしまいますで、慎重に進めていったほうがいいと感じます。
あらためて、一人ひとりのエフィカシーを上げることの重要性を感じます。
最後に、
学術からエンターテインメント、デザインまで、さまざまな分野の著名人たちが講演をするTED(Technology Entertainment Design)でインポスター症候群の裏にある心理を解説しています。